2020/10/14

営業の舞台裏(2)

 

早起きは三文の得?

 「山笠クン元気ぃ~?」

 オフィスの固定電話が唐突に鳴った。当時まだ携帯電話もなく、SNSなんて影も形もない時代だ。今は自己啓発関連のセールスをしているという。いわゆる売り込みである。

 泉山さんのノリに小生は、健康食品業界と同じ臭いを感じていた。そこで小生、リサーチも兼ねて、少し彼女の周辺をうろついてみることにしたのである。

 

 彼らに共通しているのは、超プラス思考。泉山さん曰く「山笠クン、植木等の映画で無責任シリーズってあるじゃん。観るといいよ。あれってさぁ、究極の成功体験だよね。きっと勉強になるよ」。

 「はぁ~?」と最初は思ったのだが、後々「な~るほど」と思えるようになった。そこでまずは泉山さんの会社で主催している講演会に出かけてみることにした。登壇した先生は、自己啓発セミナーでは超有名らしい。

 

 先生曰く「専門性を高めて独立すると良い」と。

 サラリーマンは労働基準法や定年制でがんじがらめに縛られているが、自営業は自分が辞めたいと思ったときに辞められる終身現役制だ。しかも、24時間・年中無休で働いても誰(労働基準局)にも咎められない。まさしく、その先生の名刺には「年中無休・24時間受付」と印刷されており、仕事上の事務所の電話番号のほかに、24時間連絡を取ることができる自宅の電話番号まで記してあったのだ。

 「でもね皆さん! 夜中に電話が鳴ることなんかまずないですよー」と。「要は心構え!!」なのだという。

 

 さらに、「私は毎朝自衛隊の起床ラッパと一緒、5:55に起床します、すなわち人生はGO―GO―GO!!」なのだそうだ。こりゃほんとか!?

 そして、データ上でも朝早く(7時迄)に出勤している中小企業のオーナーの会社は潰れない…いわゆる「早起きは三文の得」理論だ。そんなこんな、盛り沢山な内容で1時間半、ド派手なアクションの身振り手振りで講演は終わった。

 

ちりも積もれば多読の日々

 すっかり感化(洗脳?)された小生はさっそく、自分の名刺に手書きで自宅の電話番号を記入した。ただでさえ早かった出勤をさらに30分ほど早め、7時までにはタイムカードを押すことにした。ちなみに会社の始業時間は9時なのだ。

 

 確かに先生の言うとおり、深夜の電話やイタズラ電話はかからなかった。1度だけ、休日の午前中に仕事の電話がかかってきただけである。

 今や働き方改革やら産休を取れだのと、世の中が口うるさい割に、気が付けば携帯電話やSNSの普及によって誰もが「24時間・年中無休」体制を強いられている。「早起きは三文の得」については、小生の経験から早朝の通勤電車の乗客の顔からは正直、幸せそうな空気は感じられなかったが・・・。

 

 小生、運良く40代半ばで支社長に昇進した際、上司である「たたき上げの苦労人」と評判の金山常務から、「山笠、○×支社では無意味に会社に早く行くなよ。部下が迷惑だ」と突然釘を刺されてビックリした記憶がある。

 それから5年後、2度目の支社長時代。相変わらずの連日連夜の接待漬けの日々。コーヒー好きでもある小生は毎朝出勤前、5年ほど前の金山常務の「教育的指導」に従い、時間調整を兼ね、支社の近所の喫茶店で30分ほど時間を割いて読書タイムを取ることにした。その結果、ちりも積もれば年間100冊近い本を読破することができた。

 「な~るほど、こ~ゆ~ことなんだぁ」と5年の時間を費やしたが、ようやく早起きは三文の得が「腹に落ちた」気がしたのだった。   

(了)