2020/10/13

営業の舞台裏(1)

                                    洗脳セミナー全盛時代

「山笠さんって洗脳させるの得意だよね」

「どうして?」

「だってあたし洗脳されちゃってる気がするから」

「そんなことないよ、ボクは常にヨーコが幸せになってくれること、喜んでもらえることしか考えてないよ。その証拠にいつも君の予定や気持ちを尊重しているでしょ?」

「それそれ、確かにそのとおりなの。でも気が付けば洗脳されちゃってるんだよね…」

「そんなことで悩んでたの…?」

「うん」

「むしろボクの方がヨーコに洗脳されてるよ…」

 

 当時(いつでしょう笑?)月に1回、チョメチョメの関係だったヨーコからこんなことを言われたことがある。ヨーコは教員採用試験に落ち、塾の講師をしていた。

 かつて昭和50年代から平成初期にかけ、自己啓発と称する「洗脳セミナー」が花盛りだった。わかりやすく言えば、高倉健の映画を観た後、ほんの数時間でも高倉健になった気分で家路につく、そんな感じに似ている。

 

 当時のフルコミッションセールスの世界や保険外交員の世界では、それぞれの企業がモチベーションを上げるべく、工夫を凝らした「朝礼」を行った後、ロッキーのテーマをBGMに、めいめいが営業現場へ向かったと言われている…。

 

劣等感に苛まれる日々

 世紀末なのかバブル期前夜なのか、当時駆け出し健康食品営業マンだった小生は、「対面販売」で天才的な能力を発揮する怪しげな?業界人の面々を目の当たりし、「どうしたらあんなに売れるようになるんだろう…」とプチ悩んでいた時期でもあった。

 

 小生、中州食品工業社内では全く異文化の健康食品事業部育ちということもあり、同期からは「言葉巧みに人をだまくらかして売っている」と、30代半ばまではそんな感じで酒の肴にされていた。さらに詐欺師とかペテン師とか言われておちょくられていた(汗)。見方を変えれば、当時の健康食品って世間からはそんな見方をされていたものである。

 口の悪い同期など、女子新入社員に対し「山笠には気をつけた方がええで! あいつはだまくらかして健康食品売りまくっているからね」、「悪行三昧やわ」、「あいつに触られただけで妊娠するかもしれへんでぇ、気いつけぇやぁ~」とか、冗談にしてはけっこうキツい陰口をたたかれていたものだ。

「 風評」とは実に恐ろしいもの。新人ながらも、古来より「ニッポン特有の村社会の現実」を真正面から学習させてもらった次第である(笑)。

 

 ただし、社内で話題を振りまき続けた小生も、健康食品業界のなかでは劣等感に苛まれていた。何せ対面販売で小生が1日やっとこさの5万円を売り上げるところ、「対面販売の天才」との誉れ高い山菱食品販売の中本課長は 「ダメだダメだ、山チャン今日は15万しか上がりないもんねぇ」と小生をギャフンと言わせてくれる。

 片やサプリメント販売の「カリスマ」を孫に持つというフリー販売員の星野さんは、余裕で30万円を売っていた。

 そんな悩ましい日々を過ごしていた小生の前に現れたのが、プライベートな集まりの新年会が開かれたとき、偶然同席した泉山亜子さんだった。小生より2学年上、某大学の演劇科を卒業している役者志願者だった。

(つづく)