歴史から見えてくる課題は何か(5)

 

免疫と自然治癒力のはたらき

 

私たちの祖先が、医師も医療もない時代を生き延びることができたのは、免疫と自然治癒力を持っていたためだ。免疫は体内に侵入した細菌やウイルス、寄生虫などの病原体を攻撃して無毒化する。

免疫が働いている限り、病原体により発病する確率は低く、発病しても治癒する。しかし、乳幼児や高齢者、そして体調不良の人は免疫が弱いので発病しやすく治りにくい。

寒冷地で、体温が低下した場合にも免疫が低下する。すると、病原体が侵入して活動を始め、風邪などを発症する。発熱は免疫を活性化する防衛手段である。こうして、人間は多くの病気に対して免疫を持つことで生き長らえてきたのである。

 

 

しかし、私たちの免疫は親からもらったもので、その種類は限られている。

たとえば、新型コロナウイルスに対する免疫を持つ人はいない。だから短期間で世界中に広がり、最悪の場合、全員が感染する。

エイズウイルスHIVに対する免疫を持つ人はいないと考えられていたが、北欧の一部の人は免疫を持つことがわかった。2018年に中国で、ゲノム編集技術を使って卵子の遺伝子を改変し、HIVに対する免疫を持たせた双子を世界で初めて誕生させたことが報道され、倫理上の問題として大きな騒ぎになった。

人間があらゆる病原体に対して免疫を持つようになれば、病気で苦しむ人を減らすことになるが、その遺伝子操作が何かの異常を引き起こすことが懸念されているのだ。

 

稲作・仏教が運んできた結核・天然痘

人類の歴史のなかで、免疫を持たない病原体に襲われる事態は何度も繰り返した。日本の歴史を見ると、大陸との交流が拡大したときにそれが起こった。

日本に稲作が入ってきたのが弥生時代だが、同時に、それまではなかった結核も入ってきた。

また、約1500年前に仏教が伝来したが、同時に天然痘などの多くの病気が入ってきた。日本人はこれらの病気に対する免疫がなかったため、多くの死者が出たことが書き残されている。

 

感染症で激減したアメリカ大陸の原住民

海外では1492年にコロンブスがアメリカ大陸を発見した。そしてヨーロッパから移住が行われ、原住民は移住者との争いでその数を減らしたといわれるが、実は大部分の死亡原因は、移住者がヨーロッパから持ち込んだ天然痘や麻疹などの感染症だった。

 

アメリカ大陸の原住民は、日本人と同様に、他民族との交流がほとんどなかったため、限られた病原体に対する免疫しか持っていなかった。そこにヨーロッパ人が新たな病原体とともに現れたため、原住民約1,000万人の95%が感染症で死んだと言われている。

これとは逆に、コロンブス一行はアメリカ大陸からヨーロッパに梅毒を持ち帰ったのだ。梅毒はそれから20年後、日本にまで広がっている。

(つづく)